出産育児一時金の支払いを受けた場合、その年度の確定申告で、何か注意しないといけないことはあるでしょうか?
この記事では、出産育児一時金と確定申告の関係について、記載します!
1. 出産育児一時金と課税
出産育児一時金は、子ども1人あたり50万円が支給されるものです。
従前は42万円だったものが、令和5年4月から50万円に支給額が引き上げられました。
健康保険や国民健康保険の被保険者等が出産したときは、出産育児一時金が支給されます。
厚生労働省|出産育児一時金の支給額・支払方法について
その支給額については、令和5年4月より、42万円から50万円に引き上げられました。
では、この出産育児一時金は課税対象となるのでしょうか。
出産育児一時金に関する法律である健康保険法には、次の規定があります。
租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない。
健康保険法第62条
また、国民健康保険法にも、同様の次の規定があります(同法第68条)。
したがって、出産育児一時金は課税対象にならない(=非課税)と考えられます。
国税庁のサイトにも「健康保険法第101条の規定に基づき支給される出産育児一時金や同法第102条の規定に基づき支給される出産手当金は、同法第62条の規定により課税されないことになっています。」との記載があります。
「出産育児一時金が余ったら差額はいつ支払われる?差額申請期限は?」でも記載したとおり、現実に必要になった出産費用が出産育児一時金に満たなかった場合には、差額の返金を受けることができます。この差額についても、課税の対象にはならないとされています。
2. 医療費控除と確定申告
では、出産育児一時金を受け取った後、確定申告にあたって、その存在を考慮する必要は全くないのでしょうか。
医療費控除の利用を考えている方は注意が必要です。
2.1 医療費控除とは
そもそも医療費控除とは、なんでしょうか。
国税庁のウェブサイトの記載が分かりやすいので、引用します。
その年の1月1日から12月31日までの間に自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額…の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。
国税庁|医療費を支払ったとき(医療費控除)
誤解を恐れずにいえば、多額の医療費を支出した場合にお金が返ってくる制度です。
2.2 出産費用と医療費控除
この医療費控除は、出産費用との関係でも利用することができます。
そして、出産費用との関係で医療費控除を利用する場合、出産育児一時金を考慮する必要があります。
この点で、出産育児一時金は確定申告と関係があるのです。
一例として、課税所得400万円の方が出産費用として総額75万円を支出した場合を考えます。
まずは、出産費用として支出した金額から出産育児一時金などの「保険金などで補てんされる金額」を差し引きます。
出産育児一時金のみが「保険金などで補てんされる金額」に該当する場合、この計算結果は基本的に25万円となります。
この金額から10万円を引いた金額、すなわち15万円が控除対象となります。
そのため、課税所得400万円の方の所得税率は20%ですので、3万円が還付金となると考えられます。
2.3 医療費控除の対象となる出産費用
医療費控除の利用を検討する場合、どんな出産費用が医療費控除の対象となるかに注意する必要があります。
国税庁のウェブサイトの「医療費控除の対象となる出産費用の具体例」とのページには、次のような案内があります。
出産に伴う一般的な費用が医療費控除の対象となるかの判断については、次のとおりです。
(1)妊娠と診断されてからの定期検診や検査などの費用、また、通院費用は医療費控除の対象になります。
(注)通院費用については領収書のないものが多いのですが、家計簿などに記録するなどして実際にかかった費用について明確に説明できるようにしておいてください。(2)出産で入院する際に、電車、バスなどの通常の交通手段によることが困難なため、タクシーを利用した場合、そのタクシー代は医療費控除の対象となります。
(注)実家で出産するために実家に帰省する交通費は医療費控除の対象にはなりません。(3)入院に際し、寝巻きや洗面具など身の回り品を購入した費用は医療費控除の対象になりません。
(4)病院に対して支払う入院中の食事代は、入院費用の一部として支払われるものですので、一般的には医療費控除の対象になります。しかし、他から出前を取ったり外食したりしたものは、控除の対象にはなりません。
国税庁|医療費控除の対象となる出産費用の具体例
ここにも記載のあるとおり、里帰り出産の場合の交通費等は医療費控除の対象となりません。
出産費用に関して医療費控除を利用するために確定申告をする上では、この点にも注意する必要があります。
2.4 自然分娩と医療費控除
医療費控除の利用にあたっては、「自然分娩でも医療費控除って適用があるの?」と気になる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、自然分娩の場合も医療費控除は利用できるものと考えられますので、医療費控除の利用を検討する方が良いでしょう。
医療費控除に関する所得税法施行令207条は、次のように定めています。
法第七十三条第二項(医療費控除)に規定する政令で定める対価は、次に掲げるものの対価のうち…一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする。(省略)
所得税法施行令207条
三 病院、診療所…又は助産所へ収容されるための人的役務の提供(省略)
六 助産師による分べんの介助(省略)
分べんの介助が医療費控除の対象に含まれていることなどからも、自然分娩の場合にも医療費控除が利用できると考えられます。
3. まとめ
この記事では、出産育児一金を受け取り、確定申告と出産育児一時金のことを心配されている方に向けて、出産育児一時金を受け取ったことを理由に確定申告をする必要があるのかや、医療費控除と出産育児一時金の関係性について記載してきました。
この記事が出産育児一時金と確定申告の関係を気にされている方の参考になることを願っています。