出産時に50万円が支給される出産育児一時金ですが、出産費用が50万円に満たなかった場合、余った金額はどうなるのでしょうか。
結論から言うと、出産費用が出産育児一時金よりも低い金額であったとしても、出産育児一時金は満額を受け取ることが可能です。
この記事では、差額の申請期限を含め、出産育児一時金が余った場合の取り扱いをまとめます。
1. 【差額返金方法】直接支払制度を利用した場合
まず、出産育児一時金の利用にあたり、直接支払制度を利用した場合の差額返金方法を整理します。
1.1 健康保険組合の場合
健康保険組合の被保険者である場合、出産育児一時金の差額を受け取るためには、健康保険組合への申請が必要です。
出産費用が出産育児一時金の額より少ない場合、その差額を被保険者等に支給します。
全国健康保険協会|よくある質問|出産育児一時金について|Q3
差額の申請方法(申請書類)は、次の2つがあります。
- 内払金支払依頼書
- 差額申請書
直接支払制度を利用した場合、医療機関等への支給が終了すると、「支給決定通知書」が届くことになります。
この通知が届く前に申請する場合に提出する申請書が「内払金支払依頼書」です。
これに対し、この通知が届いた後に申請する場合の申請書が「差額申請書」です。
内払金支払依頼書を使用して申請する場合、多くの添付書類が必要になります。
これに対し、差額申請書を使用する場合には、添付書類は不要です。
【差額申請書の場合 】添付書類不要
全国健康保険協会|よくある質問|出産育児一時金について|Q3
そのため、「とにかく早く出産育児一時金の差額の支払いを受けたい」という希望がない限りは、差額申請書を使用するのが良いと考えられます。
内払金支払依頼書の場合に必要となる添付書類
- 医療機関等から交付される直接支払制度に係る代理契約に関する文書の写し
- 出産費用の領収・明細書の写し
- 申請書の証明欄に医師・助産婦または市区町村長の出産に関する証明を受けること
なお、支払決定通知書(及び差額申請書)は、出産から2か月から3か月が経過した後に届くとされています。
差額申請書の送付を待って申請する場合(通常、出産の 2~3 ヶ月後に、被保険者のご自宅へ協会けんぽから申請用紙等が送付されます)
全国健康保険協会佐賀支部|出産育児一時金フローチャート
この差額申請書が届くよりも先に出産育児一時金の差額の支払いを申請したい場合に限り、内払金支払依頼書を使用するようにしましょう。
なお、上記は協会けんぽの例ですが、健康保険組合によっては直接支払制度を利用した場合でも差額の申請を不要としているところや、1か月程度で差額申請書を郵送するところもあるようです。
たとえば、オリックスグループ健康保険組合のウェブサイトには、次の記載があります。
Q 出産育児一時金直接支払制度を利用し、出産費用が30万円のとき、出産育児一時金との差額の20万円はどうなりますか?
A 差額の20万円は、出産後、医療機関より分娩費請求データが健保組合に届いてから被保険者に給付します。 被保険者からの申請手続きは必要ありません。なお、直接支払制度を利用した場合は、付加給付金についても当組合への申請は不要です。(自動払い/出産月の3ヵ月後目安に給付)
オリックスグループ健康保険組合|よくある質問
1.2 国民健康保険の場合
国民健康保険の被保険者である場合には、市区町村への申請が必要になります。
こちらについては、市区町村によって必要な手続が異なることから、各市区町村のウェブサイトを確認する必要があります。
たとえば、東京都渋谷区のウェブサイトには、次の記載があります。
出産費用が支給額に満たない場合は、出産月のおよそ2、3か月後、国保から世帯主あて差額分の支給申請書を送ります。
渋谷区|出産育児一時金
また、横浜市のウェブサイトには、次の記載があります。
【差額分の支給申請】
横浜市|国民健康保険では、出産育児一時金の申請はどうすればいいですか。
次のものをお持ちのうえ、お住まいの区の区役所保険年金課へ申請してください。
・保険証
・母子健康手帳
・預金通帳又は振込先の確認できるもの
・分娩機関で発行される出産費用を証明する書類(領収・明細書)
・分娩機関で交わす合意文書(「直接支払制度を利用する」旨の記載があるもの)
渋谷区では「支給申請書」の郵送が予定されているのに対し、横浜市では、そのような書類の郵送は予定されていないようです。
このように、国民健康保険の場合、出産育児一時金の差額申請に必要な書類及び手続きは、市区町村によって異なっています。
出産前に、ご自身の住んでいる市区町村の取扱いを調べておくと良いかもしれません。
2. 【差額返金方法】受取代理制度の場合
次に、受取代理制度を利用した場合、特に申請手続は必要ありません。
「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」実施要綱には、受取代理制度に関し、次の記載があります。
イ 請求額が50万円未満である場合
「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」実施要綱
請求額として記載されている額を医療機関等の所定口座へ支払い、当該請求額と50万円との差額については、被保険者等に対し支払うこと。
この記載は、直接支払制度の場合の次の記載と異なります。
医療機関等が請求した代理受取額が、50万円(加算対象出産でない場合にあっては48万8千円)未満の場合、これらの額と代理受取額の差額を被保険者等に対し支払うものとする。
この場合において保険者は、被保険者等に対し、差額の支給申請ができる旨のお知らせを、出産育児一時金等の支給決定通知書に併記するなどの方法により、確実に行うものとする。
「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」実施要綱
直接支払制度を利用した場合に差額の「支給申請」(=申請手続き)が予定されているのに対し、受取代理制度では申請手続きが予定されていないことが分かります。
全国健康保険協会のサイトに掲載されている上記の図からも、受取代理制度では「差額の申請」が予定されていないことが読み取れます。
3. 差額はいつ返金されるのか?
ここまで、出産費用が出産育児一時金に満たなかった場合の差額の申請方法や支払いの流れを見てきました。
このような流れで支払われる出産育児一時金との差額は、具体的にはいつ頃支払われることになるのでしょうか。
3.1 直接支払制度と返金時期(健康保険組合)
直接支払制度を利用した場合、健康保険組合の被保険者は、基本的には差額申請書の郵送を待つことになります。
これが出産から2か月から3か月後に届くため、少なくとも2か月程度は待つ必要があると考えられます。
そして、差額申請後は1か月から2か月で差額が支払われることが多いようです。
もっとも、これは協会けんぽの被保険者のケースです。
上記のとおり、その他の健康保険組合によっては、差額の申請が不要なケースや、1か月程度で差額申請書を郵送するケースもあるようです。
そのため、正確な支払時期を知りたい方は、加入している健康保険組合にご確認ください。
3.2 直接支払制度と返金時期(国民健康保険)
直接支払制度を利用した場合、国民健康保険の被保険者に対する差額の支払方法は、市区町村によって取扱いが異なります。
そのため、支払時期に関しても、確定的なことを記載することができません。
上記の渋谷区のように差額の支給申請書の郵送が予定されている場合には、協会けんぽの被保険者と同様に、少なくとも2か月程度は待つ必要がありそうです。
これに対し、このような手続が予定されていない場合には、出産後比較的早い段階で差額の支払いを申請できることから、早期の差額支払いを実現できるといえそうです。
3.3 受取代理制度と返金時期
受取代理制度を利用した場合、出産育児一時金と出産費用の差額について、申請手続きは不要と考えられます。
そのため、直接支払制度を利用した場合よりも早期の差額返金を受けられるようにも思われます。
しかし、実際には、受取代理制度を利用した場合にも、医療機関等から健康保険組合(や国民健康保険)まで出産費用の請求書が届くのを待たなければならないと考えられます。
したがって、差額返金が受けられる時期は、直接支払制度を利用した場合とそれほど変わらないかもしれません。
4. 差額はいつまでに申請する必要があるか?
出産育児一時金を請求する権利の消滅時効は、出産日の翌日から2年を経過する日までです。
直接支払制度を利用した場合には、上記のとおり、差額の支払いを受けるためには申請が必要であるため、可能な限り早期に申請を行うようにしましょう
5. まとめ
この記事では、実際にかかった出産費用が出産育児一時金の金額に満たなかった場合の、差額の取扱いを記載しました。
直接支払制度を利用した場合には基本的に申請手続が必要になるため、健康保険組合の被保険者の方は、対象の健康保険組合に対し、申請方法を確認しておくと良いでしょう。また、国民健康保険の被保険者の方も、市区町村の担当者に対し、申請方法を確認しておくと良いと思います。